• 自民党はぬえ(鵺)、あるいは粘菌（アメーバの一種だが個体が集まっている）そっくり。民主党など野党もぬえ的側面はあるが、自民党は野党のぬえ的側面を衝き分裂を促す一方、自民党は逆に強みにしている。それは、政権を維持することで利権にありつき、与党利権そのものを求心力としているからである。さらに、利権の利害調整も長年の政権維持により巧みである。また、利害対立も金銭的なものであるため（思想上の対立とは違い）、金銭による代替保障による解決が可能である。
  　また、自民党に急所となる部分がないのでダメージを受けにくく、利権を守るためなら長年の仇敵であった社会党とさえ組めた。たとえ共産党との連立をも厭わないだろう。（28〜41頁、61頁、158〜160頁）
• 構造的要因。1回や2回の負けで、利権構造の根幹には影響しない。たとえば、利権を生み出す公共事業に対し、住民投票で反対しても法的拘束力を持たないので即座にダメージは来ない。その間に立て直せるようにしてある。（162頁）
• 戦略的要因。総力戦はやらず、負けてもいいように力を温存する。さらに、与党であることを活かした切り札を溜めておき、いざというときに活用する。（163頁）
• 戦術的要因。保守系無所属の追加公認、野党議員の引き抜き（一本釣り）で少々の選挙の負けは帳消しにしてしまう。国会運営でも、野党にお土産を多めに持たせてやる裏取引はお手の物。（163頁）
• 切り札。直接の利益は生み出さないが、特定政党への支持を上げたり下げたりできる性質のもの。自民党の“本職”である利権漁りがうまく行かなくなった時に使うと、絶大な力を発揮。「半世紀に渡る長期政権の過程で、自民党がせっせと作ってため込んできた切り札は、膨大なものとなっている。自民党を政権の座から引きずり下ろそうとする時、野党は、その勝機が見え始めてきたあたりから、この四方八方から飛んでくる切り札攻撃との困難な闘いを覚悟しなければならない。」（164頁、下線は引用者）
• 負け上手の文化。名を捨てて実を取るために敢えて負けて見せ、支持者もそれを容認する雰囲気がある。たとえば、世論調査で支持率が下がると、大げさに騒いで見せ、支持者もお灸を据えたと安心してしまう。（165、167、195頁）
• 争点ぼかして急所を外す。争点をはっきりさせると投票率が上がりやすく、動向の読めない浮動層に勝敗を左右されやすくなる。また、特定政策を争点にすると、勝ってもその政策が予定通り実行されるだけで大した利益はないのに、負けるとその政策を諦めざるを得なくなる。さらに、自民党の政策は、基本的に多数の犠牲の上に少数の利益を体現するものなので、争点をはっきりさせると不利になりやすい。そこでできるだけ、抽象的な政策を並べ、野党との正面対決を避けようとする。（166〜167頁）
• 金銭スキャンダルに体質的に強い。元々利権一筋の政治であるため、支持者も承知していて離反する理由となりにくい。（169頁）
• 自民党議員は、基本的に個人で資金調達する。そのため、スキャンダルが発覚しても党全体の責任とならず、個人の犯行で済ませてしまえる。たとえ党全体に波及しても、金銭収受そのものは個人なので、党として取り仕切ってはいない。そのため、適当なスケープ・ゴートに責任を取らせれば党は安泰。（170〜171頁）
• 裏切りに強い。実力以上の待遇を求める人物が多いため、結果的に密告によりライバルを蹴落とそうと熱心になる。そのため裏切り者は未然に潰されやすい。（173〜174頁）
  　また、たとえ裏切りではなくても、組織の流れに逆らおうとすると、加藤の乱に失敗した加藤紘一のように、回りを埋め尽くす人の波に埋め尽くされてしまう。そして、野党が弱いため、自民党を離党してもダメージを与えるのが困難である。（173〜175頁）
• 取り込む取り込む。福祉党から入党した八代英太、新自由クラブを結成し離党しながら出戻り党総裁にまでなった河野洋平ら、利用価値のある人間は暖かく迎える。野党転落後、与党復帰するため第二党の社会党には首相の座を差しだし連立政権に成功した。しかし、利用価値が無くなると容赦なく捨てる。社会党然り、自由党然り。野中広務も、加藤の乱鎮圧や自由党分裂でその刃の冷たさを味わあせてきたが、自らの利用価値に見切りを付けられたのか、最後は引退に追い込まれた。（176〜178頁）
• メディアは支配層の一角。運営にかかわる人間は中流以上で、自民党支持層を構成。表向きは中立だが、間接的に自民党を援護射撃する。（183〜184頁）
• メディア・リテラシーなき日本の大衆。リテラシーとは情報に対する本質的な読解力のことで、自分の思い込みとは矛盾する情報を感情的に遮断するような心理的偏向（バイアス）とは似て非なるもの。
  　テレビは大量に情報を流すため、情報を鵜呑みにする「流しそうめん効果」や逆に聞き流す能力を身につけてしまう。（186〜188頁）
• 注目効果。与党に都合のいい情報ばかり流したり、逆に野党など対抗勢力のスキャンダルなど都合の悪い情報ばかり流す。ただし、露骨にやると批判を浴びやすい。（190〜191頁）
• 黙殺効果。都合の悪い情報を完全に無視する。注目効果より発覚しにくく、表に出た情報が虚偽か、少なくとも大した問題ではなかったと思わせることができる。（191頁）
• 目そらし効果。有事法制審議中に、タマちゃんや白装束集団など、無関係の報道を繰り返して、有事法制成立を援護したことなど。また、北朝鮮問題など、ある問題が強烈な注目効果を集めている場合、他の全ての話題に副次的な目そらし効果が生まれることもある。（191〜192頁）
• すり込み効果。特定情報を繰り返し流すことでその気にさせる。これも、「小泉は改革派である」という直接的な表現だとわざとらしいが、「改革派として知られる小泉」などの間接的な表現は効きやすいのでニュース原稿などに活用されている。（192頁）
• 予告効果。将来予想される災厄を予告し、大衆に心の準備を促す。北朝鮮の危険性など、あらかじめ予告しておくことで、強硬路線が失敗に終わったときの保険を掛けるだけでなく、政府の方針が間違っていたという批判をやりにくくする。（193〜194頁）
• 覚悟効果。政府の失策による災厄が、政府の責任は黙殺し、避けられないという点だけ強調し、人災を天災であるかのように扱うことで、国民に諦めムードを醸成させる。年金負担増、消費税増税は自民党政権の放漫財政に起因するが、大した批判が起こらなければ、覚悟効果が効いての結果と見てよい。（194〜195頁）
• インストラクション効果。大衆の持っている（潜在も含め）欲求に対し、具体的な実現手段への知識を提供することで、実行を促す。イラク日本人人質事件では、人質家族への嫌がらせを詳しく報道することで、表向きは批判しつつ、その実嫌がらせの手段を教え、暗黙のうちに嫌がらせを唆す効果を持った。嫌がらせの犯人が一人も捕まらなかったこと、コメンテーターが「自己責任」論を振りかざしたことも、効果を増幅させた。（196〜197頁）
• 萎縮効果。先の人質のように、政府に刃向かった者を理不尽なまでに見せしめにすることで、国民は保身のため政府に反対の意見を公言しにくくなる。嫌がらせという犯罪を放置することで、犯罪そのものが国民に対し一罰百戒の効果をもたらす。その裏には「そんな自爆テロの道連れにされちゃかなわん。金持ちの命は貧乏人の命より重いんだ」という本音が隠されている。（198〜199頁）
• 逆誘導・逆優等生効果。表向きの主張と真の目的が逆で、報道にわざと天の邪鬼な反応を起こさせる。報道の際優等生のように振る舞うことで、優等生への心理的反発を利用し、反対の行動を取らせる。たとえば、優等生っぽく選挙に行こうと促すことで、中・低所得層の都市労働者は反発して棄権に走る可能性が高い。しかし、これこそ自民党の狙いで、政策面では最大の反自民勢力である彼らを、投票所から遠ざけることができるのである。（200〜202、216頁）
• 下地処理の重要性。「高度な心理操作は、その操作から効果の発生までに多くの段階を経る、すなわち、それだけ多くの不確定要素が介在するということを意味する。そのため、実際には意図的な操作により、目的とした効果が発生していても、その気で見なければそこに関連性を見出すことは困難である。さらに、それに気づいた反対勢力がそれを指摘したとしても、こじつけ、あるいは言いがかりに過ぎないという反論が容易であるため、実際、やりたい放題の状況でさまざまな操作が日常的に繰り返されている。」
  　効果的な下地処理の施された精神は、機械的反応の確実性が高く、間接的心理操作のプログラムが非常に作りやすい。また、大衆の反応は、±一方に偏るため、予定した効果が得られなかった場合でも調整はしやすい。それ故、入念に段階を踏んで操作を進めればかなりの効果を上げることができ、かつ最も行われているのが無投票行動への誘導である。（203頁）

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